ある日のことです。ユキノさんにお昼を誘われ、シチロージさんはちょっと贅沢なランチをいただく事になりました。
向かった先は老舗の割烹料亭。夜などは接待でも特別な取引先にしか使えない、いわゆるとっておきのお店です。
リーズナブルとはいえお昼もそれなりのお値段ではありましたが、完全個室かつ膳の上げ下げをしてくれる
従業員の質も高いため、何か込み入った話をしたい時にはぴったりの場所でした。ユキノさんがここを選ぶのは
大切な話がある時だけなのです。

「で?」

シチロージさんは秋刀魚のお刺身に軽くお醤油につけ、茗荷と山葵ををくるりと巻くと一口でいただきます。
すったばかりなのでしょう、香りと共に新鮮な山葵独特の辛苦味が口内から鼻梁へとのぼってきました。
今が旬の秋刀魚の脂ととけあってとても美味です。

「そうそう。キュウゾウくんにどうかと思って」

黒漆器のお椀を卓へと戻し、流麗な所作で紅葉を模った陶製の箸置きに竹の一膳を揃えたユキノさんは
バッグから一枚の紙片を取り出しました。シチロージさんも箸を置いてまじまじと見つめます。
それは手作りのチラシでした。


  『秋の祭礼・こどもみこし 担ぎたい子たちあつまれー!』


シチロージさんの形の良い眉が大きな山をつくります。

「子ども神輿?」
「近所の浅間神社のお祭りでね。神輿もでて結構賑やかなのよ。募集対象は三歳以上なんだけど、
 キュウゾウくん大丈夫でしょう?」
「ああ、それは大丈夫だけど」
「子ども神輿は二台だったかしら?可愛いわよ、ちっちゃな子たちが法被は当然、ねじり鉢巻、
 腹掛け、直足袋履いている姿」

お神輿を担ぐためわらわらと動く子どもたちの様子を思い出したのでしょう。ユキノさんはくすりと笑いました。
ユキノさんの言葉につられたシチロージさんの頭の中では水蜜桃のほっぺをしたキュウゾウくんがいなせな
祭り装束をぴしっと身に着けています。小生意気な感じが如何にもでとてもよく似合っていました。
そんなキュウゾウくんの晴れ姿を目のあたりにした子煩悩なカンベエさまは極上の笑顔を浮かべてくれています。
シチロージさんの顔も自然やに下がりました。

「あら、やらしい顔」
「どんな顔しようがこっちの勝手」
「お言葉ね。どうせ、カンベエの旦那でも思い出していたんでしょう?」
「だから放っておけって。で、話はこれだけかい?」
「そうよ?」
「だったら会社でも」

ジロリと睨まれ、シチロージさんは口をつぐみます。ついうっかりと忘れてしまうのですが会社で家庭の話は
しないようにユキノさんから厳命されておりました。社員たちの気がそぞろになるからというのがその理由でしたが、
イマイチぴんときません。

「えーと、その、何だ。子ども神輿の話だけどよ」

シチロージさんは再び箸を手に取り、残りのお刺身を平らげます。そして、次に清水焼の皿に盛られた
焼き物へ箸を伸ばしました。美味しそうな照りを放っている鶏肉に、旬には少しばかり早い甘鯛の塩釜焼き、
菊花のお浸しに栗のいがに見立てて揚げられた海老しんじょなどなど。どれも美味しそうです。
ユキノさんは炊きものに添えられた柚子をきゅっと絞り香りを楽しんでいます。

「やる気になったかしら?」
「それはまぁ。でもよ、氏子衆がいるだろう?よそ者が参加できるのかい?」
「ご心配なく。うちも氏子なの。問題ないわ」
「へぇ?」
「浅間神社はうちの人の産土神でね。あそこに住まいを決めたのも近くに勧請された神社があったからなのよ。
 そういうトコ、古い人だったから」
「……」
「キュウゾウくんのやんちゃ姿、カンベエの旦那も喜ぶでしょうね」

付き合いが長いだけに、ユキノさんはきっちりと要を押さえていました。
カンベエさまが喜ぶ、それはシチロージさんを言いなりにする魔法の言葉なのです。

「宜しくお願いします、社長」
「了解。楽しみね、子ども神輿」
「おう」

お神輿の上で揺れるキュウゾウくんを見つめるカンベエさまの灰色の瞳はきっと輝いていることでしょう。
それを想像するだけでシチロージさんの心は自然と浮き立ってくるのです。






その日、早めに帰宅したシチロージさんは夕飯の準備をしながら事の次第を上機嫌で報告しました。
カンベエさまはキュウゾウくんをお膝に乗せて一緒に積み木遊びをしている最中でしたが、話の内容に
大層興味をひかれたようです。

「それはいつだ?」
「10月の初めの三連休です」
「そうか」
「カンベエ」

積み木のお城を作り上げたキュウゾウくんが、カンベエさまの長い髪をくいくいっと引っ張りました。
お城の屋根になる青い三角を持ったままシチロージさんへお顔を向けてしまっていたからです。

「ああ、すまなんだ。……ほう、立派な城ができたな」

柔らかな蜂蜜色の髪を優しく梳り、カンベエさまは青い積み木をお城の天辺にちょこんとのせました。
楓のような紅色の瞳をきらきらさせてキュウゾウくんは積み木のお城とカンベエさまのお顔を交互に見上げます。
さらさらと揺れる髪の間から現れた白いおでこにちゅっと口付けました。お返しにキュウゾウくんもほっぺたの少し下、
顎鬚のあたりにキス。そんな仲睦まじい親子の横ではタノモが尻尾を振って喜んでいます。

「さぁ、夕飯ができましたよっ!!」

一人蚊帳の外に置かれたシチロージさんはどん!と大皿盛りにしたかぼちゃの千切りのサラダを
カウンターの上に置いて、二人と一匹の意識を引きつけようとしたものの。

「シチロージ。食器を乱暴に扱うな。キュウゾウが真似するであろう」

とかえってカンベエさまに窘められてしまいました。ふんだりけったりです。

「さぁ、キュウゾウ。夕餉の時刻だ」

カンベエさまの言葉に大きく頷いたキュウゾウくんは素直にお膝から降りると、たたたたっとキッチンへと向かいました。
幼稚園に入ってから毎日やっているお皿運びのお手伝いです。けれど、湯気の立つお料理が並べられた
カウンターは高くて、キュウゾウくんの背では届きません。そこで活躍するのがキュウゾウくん専用のクマさんの踏み台。
天辺まで昇るとちょうどお顔一つ分だけカウンターより高くなるのです。細い腕を伸ばしてお皿を取ろうとするのを
シチロージさんが手助けします。

「これを頼むよ。慌てないでいいからな」

大き目のサラダボールを受け取ったキュウゾウくんは零さないよう慎重な足取りでお箸や取り皿をテーブルに
並べているカンベエさまの元へと歩み寄っていきました。距離にしてほんの一メートル強。
けれど、小さなキュウゾウくんにとっては大冒険なのです。

「ご苦労。零さず持ってこれたな」

差し出されたお皿を両手で受け取ったカンベエさまはそれをテーブルの中央に置くと、膝を折って
形の良いおつむを撫でてあげました。

「キュウゾウ、椅子に座りな」

シチロージさんが三人分のお味噌汁とご飯を並べつつ声をかけます。それを合図にキュウゾウくんは
キッチンカウンターへと取って返し、小さな身体と同じ大きさの踏み台をえっちらおっちらと運んできました。
それを使って、お休みの日にシチロージさんが塗ってくれた空色の椅子にちょこんと座ります。
すると、すかさずカンベエさまが空色のナプキンを胸につけてくれました。ちゃんと零さず食べられるのにと、
お口をちょっぴり尖らすキュウゾウくんに苦笑しつつ、シチロージさんとカンベエさまもまた席に着きます。
こうして島田さんちのお食事は始まるのです。







カンベエさまの了承を得たシチロージさんは翌日、ユキノさんへ子ども神輿参加のお願いをしました。

「帰ったらすぐに連絡しておくわね。昨日聞いたら、三歳だと子ども神輿を担ぐのではなく大人神輿に
 乗ってもらうことになるだろうって」
「へぇ?」
「背がちっちゃいと子ども神輿といえども届かずにぶら下がっちゃうでしょう?だからですって」

なるほど。とはいえ、キュウゾウくんならどんな大役でも恙無く務めるにちがいありません。
ユキノさんの説明に頷きつつもシチロージさんはビデオテープを大量に購入する算段をしておりました。
お祭り参加するカンベエさまの姿を余すところなく撮影するためにも、テープ不足だけは回避したかったのです。

(…でも)

カンベエさまは本当に喜んでくれるのでしょうか。一抹の不安がシチロージさんの胸をよぎります。
なぜなら、子ども神輿の話を聞いてもカンベエさまが穏やかな貌を崩さなかったからです。
喜びのあまりハグとキスの雨を降らしてくれるとまではさすがに思いませんでしたが、話をもってきたご褒美に
キュウゾウくんへするようなほっぺちゅうを密かに期待をしていただけにがっかりです。






けれどそれはシチロージさんの誤解でした。










キュウゾウくんがお神輿の上で音頭をとるらしいと告げた次の次の日。ただいまーと我が家に
足を踏み入れたシチロージさんを出迎えてくれたのは三和土の上にきちんと並べられた小さな靴と
大きなサンダルだけでした。どうしたんだろう?と首を左右に振りながら向かったリビングには
見慣れたカンベエさまの広い背中が。いつもの光景に安心したのもつかの間、シチロージさんは
続いて目に入った光景に鞄をぼとりと床へ落としてしまいました。

「おお、帰ったかシチロージ」

首だけ捻って振り返ったカンベエさまの周りには、小紋の模様入りや藍染といったさまざまな鯉口シャツと
色鮮やかな何本もの半纏帯が半円を描くようにしてに広げられていたのです。当然、長股引も半股引も
腹掛も複数取り揃えてあります。そして、そのどれもが子ども用、つまりキュウゾウくんのものばかり。
常にキュウゾウくんの傍らから離れないタノモも衣類でできた半円形の壁に邪魔されて近づくことができずに
困り顔をしています。唖然とするシチロージさんを他所に、カンベエさまは指で顎鬚をさすりながら、
あーでもないこーでもないとコーディネイトに頭を悩ませているようです。


ところで今回の主役であるキュウゾウくんはどこにいるのでしょう?


いました。キュウゾウくんの指定席となっているカンベエさまのお膝の上にちょこんと。
けれど、カンベエさまの堂々とした体躯が目隠しになって、くったりと投げ出された小振りな手足が
見えるだけです。

「キュウゾウ?」
「……しち……」

応答する声にいつもの覇気がありません。シチロージさんはカンベエさまの横に腰を下ろしてお顔を覗き込み、
絶句しました。蜂蜜色の頭には絞り模様の捻り鉢巻をして、その身体には赤い鯉口シャツと藍染糸を使った
腹掛を着けています。そんじょそこらの子どもなんて目じゃないぜ!と叫びたくなるくらい愛らしい姿です。
けれど、その表情には、電車の中で大口を開けてぐーすかと寝ているサラリーマンよりも濃い疲労の色が
浮かんでおりました。キュウゾウくんの周りにあるどの衣装にも細かな皺が寄っていることから、
何度もお着替えをさせられてくたびれきっているのでしょう。

「シチロージ、お主も一緒に選んでくれ」
「…あの一体全体…」
「うむ。今日、浅草に行ってきたのだ」
「あ、浅草?」
「祭り装束の専門店があるとゴロベエに聞いて、行ってきてな」
「はぁ」
「どれもキュウゾウによく似合ってその場で選べなんだ。なので全部買ってきた」
「……はぁ……」

シチロージさんはスーツのままカンベエさまの横で正座して祭りの衣装を眺めます。
さほど種類がないと思っていた担ぎ手の装束でしたが、よく見れば鯉口シャツ一枚とっても文様や
染めなどの意匠の違いがあって眺める時間が長くなるにつけ、何を選べばいいのか迷いが
生じてきてしまうのです。

「……難しいですね……」

せっかくのキュウゾウくんの晴れ舞台。生涯一度きりのお神輿デビューの日ですから、一番似合うものを
選んでやりたいのが親心というもの。けれど。

「どれも似合いそうで悩みますね〜」
「シチ、何を言う。似合いそうなのではない、実際似合うのだ」
「あ、そうでした。すいません」
「わかればよい」

親ばか二人の顔を見上げ、キュウゾウくんはきゅるきゅる鳴るお腹の虫を白い両の手で宥めます。
お昼に急いでおにぎりを一つ食べたきりで、せっかくシチロージさんがおやつにと作ってくれた白葡萄の
トライフルはお預けを食らったままだったのです。

「カンベエ」

キュウゾウくんはうねうねとくねる一房の髪をくいくいっと引っ張り、空腹を訴えました。

「すまぬな、キュウゾウ。もそっと待ってくれ」
「そうそう。とびきり似合うのをコーディネイトしてやるからな!」

衣装選びにノリノリの両親には何を言っても無駄なようです。床に散らばる衣服を真剣に眺める
二つの顔を見やり、キュウゾウくんは諦めのため息を一つつきました。
そして、カンベエさまのお膝の中に深く深く沈み込んだのです。








RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR







電話が鳴ったのは十何種類もの組み合わせの中からようやく二つにまで絞込み、はてさてどっちだ?と
夫婦で首を傾げていた時のことでした。キュウゾウくんはカンベエさまのお膝の上でけたたましい音を
ものともせず、すぅすぅと気持ち良さそうに眠っています。腰の浮きかけたカンベエさまを手でやんわりと制し
シチロージさんが立ち上がりました。島田さんちの電話は夫婦の寝室にあるのです。

「はい、島田」
『あ、シチさん?』
「ユキノ?」
『ゆっくりしているところ、ごめんなさいね……』

電話の相手は会社で別れたばかりのユキノさん。ずいぶんと沈んだ声です。何かあったのでしょうか?
シチロージさんは性能のいい脳みそをフル回転させて考えます。明日の経営会議で使う資料に不備が?
それとも新店舗開店準備室で問題が?はたまた仕入れ元で今流行の食の安全不安が発覚?
どれもありそうで、どれもなさそうです。けれど、受話器を通してユキノさんのとても困っている様子が
ひしひしと伝わってきます。本当に何があったというのでしょうか。

「いや、別に構わねぇけど。何かあったのかい?」
『……ええ……』
「ユキノ?」
『ごめんなさい!!本当にごめんなさい!』
「は?」

一方のカンベエさまは、床に広げた衣装を飽きもせずじっと見つめていました。カンベエさまご自慢の
ふわふわの蜜色の髪や石榴のように綺麗な赤い瞳を一番綺麗に映えさせてくれるのはどれだろうか。
そうして考え抜いた結果、カンベエさまは白地に小紋模様の入った鯉口シャツに紺の長股引と
藍染の腹掛と地下足袋を選びました。最後に絞りの捻り鉢巻を〆ればパーフェクト。
シチロージさんが同意すること間違いなしです。念のため試着してもらおうと灰色の瞳をすやすや眠る
キュウゾウくんの白い面へ向けました。けれど、あまりに気持ち良さそうな様子に起こすのが可哀想で、
大きな手で髪を優しく撫で摩るだけに止まります。するとそこへスーツ姿のままのシチロージさんが戻ってきました。

「ずいぶん長い電話だったな」
「はい………」

シチロージさんは一つ返事をしたきり、リビングの出入り口で突っ立ったまま動こうとしません。

「どうした。早く入ってこい」
「……はぁ……」
「ん?どうかしたのか?」
「いえ……あの」

歯切れの悪い応答にカンベエさまは首を傾げました。誘えばどんな時でもすぐに傍らへやってきてくれる
シチロージさんが、爪先でのの字を書くばかりの様子は変を通り越して胡乱です。

「何があった。大事か?」
「いえ、あの、まぁ、ええ…」

一向に縮まらない距離に焦れたのはカンベエさまの方でした。

「シチ」

低く咎めるような声音にシチロージさんの背筋がぴん!と伸びました。三つ子の魂ではありませんが、
結婚した後でもカンベエさまが上役だった頃の記憶が骨の髄まで染みついているのです。

「す、すいません、カンベエさま!」
「謝る前に理由を言わぬか」
「はい……」

大きく項垂れて、シチロージさんはぽつんぽつんと話し出しました。

「今の電話なんですが」
「うむ」
「ユキノからでした」
「そうか。して?」

カンベエさまは鷹揚に頷き、やんわりとした相槌で言葉が止まりがちなシチロージさんを促します。

「今夜……」

忙しなく動いていた青い視線が膝の上のあどけない寝顔へと向けられ、悲しそうに眇められました。

「シチ?」
「……氏子会の会長からの連絡があって」

嫌な予感にカンベエさまの眉が顰まります。早朝や夜中の電話が良い知らせを運んでくることは
滅多とありません。カンベエさまは経験値としてそうと知っていました。

「氏子衆の一人が子どもを祭りに参加させたいと申し出があったそうです」
「……」
「キュウゾウと同じ三歳で、子ども神輿を担ぐには小さいそうで」
「あいわかった」

カンベエさまはシチロージさんに皆まで言わせませんでした。

「カンベエさま?」
「事情は理解した。そういう理由なら致し方あるまい。氏子衆が優先されるのは道理だからな」
「……ユキノが、謝ってばかりでして……」
「それはかえって申し訳ないことをした。気にしないでほしいと伝えてくれ」

微笑を湛えてそう言ったカンベエさまではありましたが、失望は隠しようがありません。
思わず下がった視線の先にあるたくさんの衣装にため息がこぼれます。毎日少しずつ背が高くなり、
体重も増えているキュウゾウくんがこれらを着ることはもうないでしょう。

「……んぅ……」

小さなお口がむぐむぐと動き、むずかるような声が聞こえてきます。僅かとはいえ、カンベエさまが
動いたことによってキュウゾウくんの意識が浮上したのです。やがて、ぼんやりとした赤い瞳が目蓋の下から
ゆっくりと現れました。

「……かんべえ?」
「すまなんだ。起こしてしまったな」

詫びるようにふんわりした髪を撫でるカンベエさまの袖口を小さな手がぎゅっと掴みます。

「カンベエ?」
「どうした、そんなに強く握って。ご機嫌斜めか?」

深く寄った衣服の皺に苦笑を零しつつ、硬い拳をつくる白い手を包み込みました。

「カンベエ!」

しっかりしたお声で大好きな名前を呼んだキュウゾウくんは、お膝の上に両足ですっくと立ち上がります。
そして、近くなったカンベエさまの褐色の頬にちゅうっとお口で吸い付いたのです。

「キュウゾウ?」

前後脈絡のない行動に両親の目が丸くなります。けれど、キュウゾウくんは意に介さず何度も何度も
カンベエさまの頬を啄ばみ、小さな二つの手で髪をさすさすしてくるのです。

「キュウゾウ、お前……」

カンベエさまは相変わらずきょとんとしていましたが、シチロージさんはぴんときました。
幼稚園で紅い瞳をからかわれた日や、タノモが風邪を引いて元気のなかった日。
カンベエさまはつやつやの頬っぺたや白い額に優しいキスの雨を降らし、言葉なくキュウゾウくんと語っていたのです。
今のキュウゾウくんの仕草は、カンベエさまのそれとそっくりでした。シチロージさんは二人の横に腰を下ろし、
鉢巻が巻かれた髪をくしゃりと撫で回します。

「カンベエさま。せっかくですからお祭りには行きましょう」
「だが」
「神輿に乗らなくたって、祭りは楽しめます。射的に輪投げ、ソースせんべいに林檎飴。わたあめだって型抜きだって」
「シチロージ」
「人出が多いだろうから、タノモはお留守番してもらわないといけないだろうけど」
「……」
「三人一緒なら、何でも楽しいですよ。だから、ね?行きましょう」
「……そうだな……」

カンベエさまはシチロージさんの言葉に小さく、けれどしっかりと首を縦に動かしました。

「カンベエ?」

二人は小さな頭の上で視線を絡め合います。
そして不思議顔をして両親を見上げるキュウゾウくんの額にカンベエさまが、金色の髪にシチロージさんが
それぞれ優しく口付けたのです。






2007/11/27





20202Hits キリリク。
お題は『ご町内のお祭りで子ども会のお神輿をかつぐコトとなったキュウとか、
秋の豊穣祭りのお稚児さん行列に加わることとなったキュ ウとか、
小さな彼の晴れ姿を、こちらも和装で眺める島田夫婦』
でした。担がせなくて申し訳ありません。

林檎飴は大きすぎるので、すもも飴や杏飴をキュウゾウは買ってもらいます。
島田夫婦は普段着ですが、キュウゾウはせっかくなので担ぎ手衣装です。
そして、型抜きや射的に子どもよりも夢中になるのがシチさんクオリティ。
遊びには手をぬかなそうなイメージです。(すいません)


  *かめきちさまのところの『family』が大好きなもので。
   秋のイベントの狭間というお忙しい時期に、
   ついつい…面白いカウンター数と巡り合ったのでと、
   我儘なお声掛けをし、リクエストをお願いしてしまった厚顔者でしたが。
   可愛らしいラブラブな親子を書いていただけて、
   どんな言いようをもってくればいいのかが判らないほどの、
   山盛りの幸せに見舞われてしまいましたですvv
   とってもややこしい番号でしたのに快諾くださり、
   しかもしかも、キュウゾウくんの衣装選びに熱中するカンベエ様…vv
   どんな難しい戦局だって、鋭い洞察での英断をきびきびとつけて来た方でしょうに、
   可愛いキュウゾウ君には何を持ってきても似合うので困ると、
   真剣本気で迷っておいでのご様子が目に浮かび、
   しかも…お母様を慰める優しいキスを身につけていたキュウゾウくんもまた
   愛らしいったらなくてvv
   本当にありがとうございましたvv そして、お骨折りありがとうございましたvv
   大切にしますvv 宝物ですvv

かめきち様のサイトさんへ EOS7 サマヘ

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